花火 [日々のキルト]
山下公園の夏の花火はこのマンションからもよく見えるので、毎年楽しみにみている。
あたりに高い建物がないので、ここからはいろんなところの遠い花火まで見えて、たのしい。
花火というと、私はいつもヘッセの「クヌルプ」を思い出す。15歳の遠い!むかしに、兄が教えて
くれた本だけれど、忘れた頃にまた読み返したりすることがある。そのころ読んだ訳の題は「漂泊の魂」
(相良守峯訳)となっていて、これも名訳だと思う。さすらいの魂を抱いて短い一生を生きたクヌルプが、
語ったのは、美とは何か…についてだった。
花火と少女のもつ美の儚さと魅力について話すとき、「…僕は夜、どこかで打ち上げられる花火ほ
どすばらしいものはないと思う。青い色や緑色に輝いている照明弾がある。それが真っ暗な空に上がっ
ていく。そうして丁度一番美しい光を発する所で、小さな弧を描くと、消えてしまう。そうした光景を眺めて
いると、喜びと同時に、これもまたすぐ消え去ってしまうのだという不安に襲われる。喜悦と不安と、この
二つは引き離すことが出来ないのだ。そうしてこれは、瞬間的であってこそ、いっそう美しいんじゃない
か。」
「あの幽かな魅惑的な多彩の火柱、暗闇の中を空に打ち上げられて、見る見るうちにその闇に溶け込ん
でしまう。それは美しければ美しいほど、あっけなく、そしてすばやく消え去ってしまう、あらゆる人間的な
喜びの象徴のように私には思えるのだった。…」
死後、何十年も経ているが、この本の読後に、若いまま逝った兄はこの物語をどんな気持ちで読んだの
かなあ…とときどき思うことがある。(訳は一部なおしてあります)
あたりに高い建物がないので、ここからはいろんなところの遠い花火まで見えて、たのしい。
花火というと、私はいつもヘッセの「クヌルプ」を思い出す。15歳の遠い!むかしに、兄が教えて
くれた本だけれど、忘れた頃にまた読み返したりすることがある。そのころ読んだ訳の題は「漂泊の魂」
(相良守峯訳)となっていて、これも名訳だと思う。さすらいの魂を抱いて短い一生を生きたクヌルプが、
語ったのは、美とは何か…についてだった。
花火と少女のもつ美の儚さと魅力について話すとき、「…僕は夜、どこかで打ち上げられる花火ほ
どすばらしいものはないと思う。青い色や緑色に輝いている照明弾がある。それが真っ暗な空に上がっ
ていく。そうして丁度一番美しい光を発する所で、小さな弧を描くと、消えてしまう。そうした光景を眺めて
いると、喜びと同時に、これもまたすぐ消え去ってしまうのだという不安に襲われる。喜悦と不安と、この
二つは引き離すことが出来ないのだ。そうしてこれは、瞬間的であってこそ、いっそう美しいんじゃない
か。」
「あの幽かな魅惑的な多彩の火柱、暗闇の中を空に打ち上げられて、見る見るうちにその闇に溶け込ん
でしまう。それは美しければ美しいほど、あっけなく、そしてすばやく消え去ってしまう、あらゆる人間的な
喜びの象徴のように私には思えるのだった。…」
死後、何十年も経ているが、この本の読後に、若いまま逝った兄はこの物語をどんな気持ちで読んだの
かなあ…とときどき思うことがある。(訳は一部なおしてあります)