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届かぬ声(2) [言葉のレンズ]

前回の続きです。


         届かぬ声
                                      斉藤 梢


市役所の壁のすべてを埋めてゆく安否確認の紙、紙、紙が


三日目の朝に降りくるこの雨を涙と思う 抒情は遠し


傷あれど痛みを言はぬ人たちにガーゼのやうな言葉はなくて


生と死を分けたのは何 いくたびも問ひて見上げる三日目の月


どう生きるかといふ欲は捨てるべし震災四日目まづ水を飯を  


我が家へのガソリンのみになりし夕 震災五日目帰宅を決める 


津波にて取り囲まれし八階より見下ろす田圃 田圃にあらず


消費期限切れたる豆腐・卵・ハムどんよりとある冷蔵庫は闇


「届かなかった声がいくつもこの下にあるのだ」瓦礫を叩く わが声


この眼(まなこ)で見たのはいつたいどれほどのことであろうか汚泥が臭う


定型に気持ちゆだねて書く、書く、書く、余震ある地に言葉を立てる


もうここで書けぬ書けぬとさらに書くわれの心に無数の亀裂


被災地にしだいに闇のかぶされば星はみづから燃えているなり



””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””
また次回につなぎます。
今日は台風が関東地方にも刻々と迫っています。雨音がさっきから急に
激しくなってきました。
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