SSブログ

無限軌道 飯島正治 [詩作品]

『薇』4号を送っていただいた。飯島正治氏の追悼号だった。その中から「無限軌道」を載せたい。


    無限軌道                                                                           

      
黄ばんだ畳の野原を息子の鉄道模型の

ちいさな列車が駆けている

畳に耳をつけ眼を閉じると

レールを刻む車輪の音が大きくなる



縁の川にかかる積み木の橋を渡って

列車は過去の坂を下ってゆく

すると汽笛が聞こえ

ぶどう色の客車を引いた蒸気機関車が

扇状地のりんご畑の間を

ゆっくり上がってくるのだ



枝々のりんご袋を一斉にゆすって

列車が通り過ぎる

煙のなか車窓の一つひとつに

顔が浮かんでいる

おぼろげな父親の顔や軍帽の叔父

おかっぱの少女も見える

帰ってこなかった者たちだ



彼らを乗せたまま

列車は無限軌道を走り続けている

眼をあけると

ヘッドライトをまたたかせ

あえぎながら未来の橋を渡ろうとしている


””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””

はるばるとした永劫の時間と今のこの瞬間が、一つになって見えてくる。
こんなにもありありと見える遠景。遠ざかる列車の車輪の音と、汽笛まで聞こえる。
無限につづく人々の記憶のつながり。ふいに懐かしさがよみがえる。
たとえ会ったことのない人々も私の記憶の中にいるのだと思う。
nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:趣味・カルチャー

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。