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『仏像のひみつ』はおもしろい [日々のキルト]

美術史の山本勉氏(現在清泉女子大学教授)による『仏像のひみつ』はとても興味深い一冊だった。いままでそれなりに多くの寺社や展覧会などで仏像を拝観する機会はあったが、このように分かりやすく仏像の種類やつくり方、その歴史について説明された本と出会ったのは初めてのことだ。これは私のような浅学者や初心者、若者、子どもたちにほんとに役に立つ啓蒙書であると感じ入った。

なかみをいえば、全部イラストつきで、漢字や専門用語が少なく、それだけでも読みやすく風通しのよい窓がひとつあいたような気がする。項目の(ひみつ その1ー仏像たちにもソシキがある)では如来、大日如来、菩薩その他のそれぞれのキャラクターの解説があり、(ひみつ その2ー仏像にもやわらかいのとカタイのがある)では、仏像の素材や造られ方がイラストによって具体的に語られている。(ひみつ その3ー仏像もやせたり太ったりする)では仏像を輪切りにしたとして、そのときの形が時代によってまるくなったり、楕円形になったり、またそのお姿もやせたりふとったりするのが、シルエットでくっきり示されている。(秘密その4ー仏像の中には何かがある)では仏像に魂を入れることについて、その内臓品のことなど。…というようにそれぞれ口語的な語り口での説明がある。
いままで彼方にあって拝んでいる対象だった仏様たちが、急に親しみやすく身近なものに思えるのは、こうした表現上のご苦労があったおかげと思いつつ、一般向けにこのような解説書が出たことは多分画期的なことだと思った。

山本氏は以前上野の博物館に勤務中、教育普及室長をしておられ、その折に「仏像のひみつ」という展覧会を企画された由。そのときの経験からこの本が生まれた経緯があとがきに記されている。

(解説の文章で意識したことは、できる限りテクニカルタームを使わないことです。初心者向けの仏像解説の多くは、テクニカルタームの解説ばかりに汲々として、読者に多くの用語を覚えることをなかば強制しています。……むつかしい漢字の多い専門用語はそれじたい一般の人を拒絶しているでしょう。それを極力排除しようとしたのです。たとえば、如来の髪の毛はパンチパーマ状の巻き毛であることを語るだけにして、それを指す「螺髪(らほつ)」という専門用語を紹介することはしませんでした。)以上は山本氏の言葉。

初心者たちや、一般の若者たち、そして子どもたちにとっても、これは入門の書としてとても役立つ一冊だと思う。このような風通しのよい文体の仏像解説書が生まれたことをご紹介します。

『仏像のひみつ』山本勉著 ( イラスト 川口澄子)朝日出版社  1400円

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