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夢の味 [日々のキルト]

今、次のファンタジーの会のテキスト、漱石の「夢十夜」を読み返している。これは読むほどにおもしろくなる物語だが、これとは別にメンバーの方たちの見た夢というのが手元にあって、それを読んでいるとつくづく人間というのはおもしろい存在だなあと思う。一人ずつが、夜にはこんな不思議な世界をひとりきりで生きているのだもの…。人生は決して平板なものではないのだ。
手元にある夢のなかから比較的みじかく、おもしろい夢を一つ引用させていただこう。
たとえばさんのこんな夢。
「ドアがカサコソと震え,少しずつひらく。小犬のようなクマがまじまじと私を見ている。鼻の先が乾いているクマを抱き上げ、私はドアの内側に入る。
静まり返った部屋の奥から、タップを踏む足音がする。ロバが床をたたきながら、近づいて来る。蹄を笑い転げるように響かせ,「さあ、君も踊って」といって、ロバは肩を揺すりながら遠ざかっていく。
「ママを探さなくちゃ」という、クマの重みが腕に加わる。私は立ち上がり、窓の外を眺める。濃い灰色の雲の下の森はぬかっていそうだ。長靴をはかなければと思う。
丘の向こうから、バイクの激しい音が聞こえてくる。そっくり返った姿勢で運転しているのは狼のように見える。……(以下略)」
夢分析などとは無関係に、一読してこの夢は、まるで詩のなかを散歩しているような情景だ。この夢はこの後、晴れやかな心象のうちに幸せ感をもって終えるのだが、この夢の題は「眠りの内で、認識している音」という。ほんとにリズムと響きにみちた躍動的な夢だ。こんな夢を見た朝、夢主はきっと気分がいいだろうなあと思う。
 
とてもいい夢を見て、それをすっかり忘れる一日。すてきな日とは、ほんとはそんな日かもしれないが。

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