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ヘイデン・カルース(�) [言葉のレンズ]

カルースの作品には動物がたくさん出てくる。アビ〈鳥)の詩を読んだ。最後の連のアビの鳴き声の描写の強烈さ。いまの私にはこわいほど共感できる。私はカラスの声にいまそれを感じている。

                      フォレスター湖のアビ

                   
                 夏の原野……青みがかった光が
                 木や水にきらめいている。しかしその原野も
                 いまは消滅しかけているのだ。「おや?
                 あれはなんの鳴き声だろう」。すると
                 あの狂気の歌、あの震える調べが
                 ランプのなかの魔法使いの声のように 聞こえてきた。
                 人生の遠い原野のなかから聞こえてきた。

                    
                 アビの声だった。そしてそのアビが
                 湖を泳いでいるではないか。岸辺にある
                 メス鳥の巣を見張り、
                 潜り、信じられないくらい長い時間
                 潜りつづけ、そしてだれも見ていない水面に
                 姿を現した。友人があるとき
                 子供のころの話をしてくれたが、
                 アビがボートのしたを潜りつづけて
                 静かな神秘的な水中の世界に
                 黒ぐろと力強い姿を見せ、それから
                 背後にふんわり
                 白い糞を発したという。「すばらしかったよ」
                 とかれは言った。


                 アビは
                 二度三度湖面の静寂を
                 破った。
                 鳴き声で……まさに名残の鳴き声で……
                 原野を
                 破った。その鳥の笑い声は
                 初めはすべての陽気さを超え、
                 それからすべての悲しみを超え、
                 最後にすべての理解を超え
                 このうえなく微かな震える永遠の嘆きとなって
                 消えていった。その声こそぼくには
                 真実で唯一の正気に思えた。


もう一つ別の詩の一部分を引用します。
            

                   
             ……この歳月は動物を消滅させる歳月だった。
             動物は去っていく……その毛皮も、そのきらきらした眼も、
              その声も
             去っていく。シカはけたたましいスノーモービルに追い立てられ
             ぴょんぴょん跳ねて、最後の生存のそとへ
             跳んで消える。タカは荒らされた巣のうえを
             二度三度旋回してから星の世界へ飛んでいく。
             ぼくはかれらと五十年いっしょに暮らしてきた。
             人類はかれらと五千万年いっしょに暮らしてきた。
             いまかれらは去っていく。もう去ってしまった、と言っていい。
             動物たちには人間を責める能力があるかどうかは知らない。
             しかし人間にサヨナラを言う気がないことは確かだ。

                                   「随想より」後半部分

以上の2篇は『兄弟よ、きみたちすべてを愛した』より抜粋。
 
               
                                      


         
                     
                      
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獅子童丸

カラスにアビと言う名前がついていることだけでも感銘いたします

詩人が名づけると言うことは、それだけの想いが作者の中にあると言うことですね

フオレスター湖と言う湖の名もアビのおかげで刻み込まれます

アビの「唯一の正気の声」を正気の声として聴くことが出来たカールース氏は、そのような声を傾聴することが出来る貴重な詩人、そのことに共感できる水野さん!



映画好きの私としては自分の中でアビの映像を飛ばして見ました

余談ですが60十年もすればいなくなってしまう北極に棲む動物の映画「ホワイト・プラネット」が6月から公開されています

イッカク、ホッキョクグマ、アザラシなど沢山出てきます

狐の跳躍が素晴らしく、それぞれの鳴き声や足音も新鮮に響きます

絵本「ドードーを知っていますか」も重なります
by 獅子童丸 (2006-07-19 07:44) 

ruri

ホワイト・プラネットは見てみたいです。雪の上の足跡は神秘的で、足跡だけの写真集を以前買ったこともあります。

動物の映画ならなんでも見たいほうなのです。

映画WATARIDORI(渡り鳥)は見ましたか?

「ドードーを知っていますか」も大好きな絵本。ときどき開いて楽しんでいます。ほんとは辛い本ですけど。
by ruri (2006-07-19 22:41) 

kinu

アビはカラスとは違いますが、アビの鳴き声は映画『黄昏』の中で聞き、ひどく胸に残り、図鑑で探した思い出を持っていて、ひどくこの詩にも感動しました。最近のYVで見た「WATARIDORI」も感動的でした。私も動物映画ならなんでも見たいほうです。
by kinu (2006-07-20 09:43) 

ruri

[黄昏」のなかのアビの声,私も聞いた筈なのに、記憶に残っていないことが残念。もうずいぶん昔の映画ですよね。今度見る機会があったら気をつけてみますね。
by ruri (2006-07-20 15:33) 

青リンゴ

最初の詩では、(鳥の笑い声)という表現が衝撃的でした。しかも、それが(真実で唯一の正気)となると、深く響いてきます。二番目の詩では、最後の一行、(人間にサヨナラを言う気がないことは確かだ)は、痛烈であり当然だと思いました。

わたしも動物の映画は好きですが、自然のなかで接するのも大好きです。森の遊歩道の途中に、小鳥の観察小屋があります。それはまるで森の一部のようにカムフラージュされていて、観察者は、暗い穴のような中へ入り、地面に近い小さな覗き窓から、そっと見るのです。すると、覗いてるのを知らずに、近くまで小鳥が寄ってきて、とてもよく見えます。わたしの好きな場所のひとつです。
by 青リンゴ (2006-07-20 16:51) 

ruri

私も大森の自然園だったかで、のぞき?をやったことがあり、いろんな小鳥や水鳥をみられましたが、でも青りんごさんのところの方が自然そのものの豊かさがありそうですね。

横浜のこのあたりときたら、最近はもっぱらカラスの声ばかり。あとはいまの季節だとヒヨドリと四十雀くらい。でもカラスの声もきいているとけっこう暗示的なんです。いまカラスの詩を書いているので、気になる一方で。(すべての理解を超え)ていて、そのまま(永遠の嘆きとなって)消えていくようです!
by ruri (2006-07-20 23:25) 

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