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鯨売りの歌 [詩作品]

                 鯨売りの歌


              クジラを探しに出かけたんだ
              岩ばかり続く荒れた海へ
              おれの船はもう役立たずで
              迷いクジラの一頭さえ見つからない
              海は汚れ 砂浜は靴跡と骨ばかりさ


              おれはやっと明けがた戻ってきた
              地獄の底から引き上げられたように
              おれの心はくたびれて
              なんだかもうあの空がからっぽに見える


              海は黙り 砂浜は靴跡と骨ばかりさ
              むかし仕留めたあの大クジラの声だけが
              あの世までおれの暗い海を騒がせるのだ


              せめておれは歌おう
              残されたクジラ売りの歌を
              おれは歌おう
              すばらしいあいつらのために
              消えてゆくあいつらへのはなむけの歌を


               ”クジラはいらないか
                とりたてのクジラはいらないか
                おいらの仕留めたこのクジラ
                うまいステーキ クジラのさしみ
                大きな骨で家が建つ
                小さな骨で傘を張る
                脂をしぼろう 火をつけよう
                石けんに 機械油に カーワックス
                ダイナマイトに ソーセージ
                肝油、靴べら、麻雀パイ
                ドッグフードから ボタンまで
                無駄ひとつないこのクジラ
                骨から すじから しっぽまで
                使い尽くそう このクジラ ”

              
              さあ、お立会い 
              まるごとのクジラ一頭買わないか
              お代はいらない 
              そのかわり 
              そこに立ってるあんたの魂と引きかえだ           
              それくらい 値打ちはあるよ このクジラ
              海とおんなじ 塩辛い
              血しぶき上げたクジラだよ
              悪魔のように赤い火燃やした クジラだよ
              声限り歌いつづけた クジラだよ
              夢全体と引きかえに
              おいらが仕留めたクジラだよ
                
              さあ、お立会い…お立会い  


 
(これは「滅びゆく動物たちへ」のコンサートで、遠藤トム也さんが朗唱した詩です。
 その朗誦が印象的で、今も耳に残っています。)
 

                     
                       
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青リンゴ

ふと、小説の「白鯨」と「老人と海」を思い出しました。かつては、捕るものと捕られるものの間には、心が通っていたし、暗黙のルールやいのちをやりとりする感謝の気持ちがあったと思います。それが消えたとき、動物たちの滅んでゆく状況が一気に加速したような気がします。
by 青リンゴ (2005-09-20 23:10) 

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