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しずかに流れるみどりの川 [日々のキルト]

 ユベール・マンガレリの『しずかに流れるみどりの川』を読んだ。『おわりの雪』の著者が
1999年に小説第一作として発表したものという。『おわりの雪』は少年と父親の寡黙な
関係が、一羽のトビの飼育をめぐって、ひそやかに展開する物語だ。雪原を犬と歩き
続ける少年の心理が、雪の一片のように、読後心に溶けていく、そんな読後感があった。
大きなドラマは起こらないのに、マンガレリの文体は読むものの内部に消えがたい印象
を残す。
この『しずかなに流れるみどりの川』も、少年がその父親との貧しい暮らしのなかで、二人
で追い求めるガラスびんの植物への夢とか、草のトンネルをたどりながら、少年がひとり
育てる夢想の世界とか、その低声による語り口で、同じように読者の胸に深い香りのア
ロマを残す作品だ。知らず知らず、私は少年と同じ草のトンネルを歩み、室内に斜めに
さしこむ光のなかで、百個のガラスびんをのぞき、教会でローソクを盗み、神様に一緒に
お詫びしたのかもしれない。どこにもある暮らしというもののもつ語られない哀しさ、少年
の素朴な優しさは、とまどいながらも、私の戸口をたたく雨か風のように思われる。

 『しずかに流れるみどりの川』  田久保麻理訳 (白水社)
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青リンゴ

いつも行く書店に、電話で問い合わせをしてみましたら、在庫がありましたので、明日にでも買いに行きます。実はその書店に、やはり電話で問い合わせをして、在庫がありましたので、買いに行って戻ってきたばかりで、ひとりで苦笑しました。「おわりの雪」を読んで以来、わたしもユベール・マンガレリのファンになりました。確かにおっしゃるとおりです。地味で静かな展開のまま、物語は進んでいくのですが、読後に何か特別な雰囲気を深く残してくれる作家ですね。読むのが楽しみです。今日買ってきた本は、大好きな倉橋由美子の遺作となった「偏愛文学館」です。読書案内の本で、夏目漱石の「夢十夜」も紹介されています。虫の音を聞きながらの読書三昧の季節がやってきました。
by 青リンゴ (2005-09-01 17:12) 

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